独創的なデザインと鮮やかな色づかいの家具で知られるベルギーのデザインデュオ、ミュラー ヴァン セヴェレン(Mueller Van Severen)の自宅とスタジオは、ヘント郊外にある小さな町、エーフェルゲムにあります。
19世紀に建てられたという風格ある自宅の隣に、オレンジ栽培用の温室を現代的なワークスペースに改装した個性あふれるスタジオがあります。彼らの代表作や、ラフに色が塗られたサンプル、未完成のプロトタイプなどに囲まれた明るいスタジオで、ハネス・ヴァン・セヴェレン(Hannes van Severen)とフィーン・ミュラー(Fien Muller)は、デザインへの遊び心あふれるアプローチについて語ってくれました。
アーティストとしての経歴は、家具デザインへのアプローチに影響を与えていますか?
ハネス:アーティストとしての経験はとても役立っています。僕たちが作品を作り始めたのは10年以上前で――
フィーン:いえ、15年前よね。
ハネス:そうだった!僕たちは同じアートスクールに通っていたんです。フィーンは、身のまわりにあるものを使って色や形を組み合わせ、コンテンポラリーな静物モチーフにしていました。僕は、ここの庭にある階段のような形の彫刻を作っていました。
今もアーティストとしての活動をしていますか?
ハネス:以前と同じような活動はしていませんが、今の状態がアーティストとしての活動から遠く離れているとは感じていません。家具は彫刻だと考えているので、今の製作に満足しています。手作業でのプロトタイプ作りは、基本的に彫刻ですから。
フィーン:そう、やり方は同じです。もちろん素材は違いますし、機能性を考える必要はありますが、作業する上では境界線がなく驚くほど自由です。
影響を受けた人や作品、予期せぬ発見などは?
フィーン:私たちの活動に最も影響を与えているのは日常生活だと思います。日々の暮らしのささいなことからインスピレーションを得ているのです。尊敬するアーティストはたくさんいますが、特別なヒーローという存在はいません。
では、好きなデザイナーはいますか?オフィスには、ご自身のデザインのほかにジャン・プルーヴェのチェアがありましたね。
ハネス:そうですね、モダニズムのデザイナーには好きな人が多いです。
フィーン:私はコンスティン・グルチッチがとても好きです。思考プロセスやものの捉え方はすばらしいと思います。
作品の中では色彩が重要な役割を果たしていますね。カラーパレットはどうのように決めていますか?
フィーン:私たちにとって、色は自然に思い浮かぶものなんです。色選びは好きですが、いつも形と機能を先に決めてから色について考えます。色は、直感に従ってすばやく決めます。
ハネス:たいていの場合、使いたい素材を発見するとすでに色がついているので、そこに組み合わせる色も自然と決まります。それから特定の色を探すので、それが逆に新しい素材の発見につながることもあります。
つまり、色が素材を決め、素材が色を決めるのですか?
フィーン:そうです。
ハネス:たとえば、初期に使った素材のひとつにテーブルトップや棚に使われるポリエチレンがあります。これを使って、プロ用のキッチンで使われるプラスチックまな板を作りました。まな板は衛生のため食品別に使用するので、色は5色のみ。野菜を切るのはグリーンとか…。
なるほど、肉はレッドとか。
ハネス:そうそう、ブルーは魚用、イエローは鶏肉用です。
フィーン:それで、色の組み合わせから始めました。最初は5色しか使えないことがもどかしかったのですが、選択肢が限られていたため、逆におもしろい組み合わせを発見できましたよ。
絶対に使わない色はありますか?
ハネス:パープルですね。オレンジも使いたくないと思うことがあります。
フィーン:(笑い)私はどの色でも気にしないけれど、組み合わせにはこだわります。パープルはとてもいい色ですが、私たちのカラーパレットには合いません。
素材の話に戻ると、工業用ポリエチレンのほかに大理石やさまざまな金属を使っていますね。選択の決め手は何ですか?
ハネス:ごまかしのない純粋な素材が好きなんです。何かを隠したりしたくないので、加工しないありのままの素材がいいですね。
フィーン:私たちが作るまな板は素材感がそのまま出ているので、サンプル作品だと勘違いする人もたまにいますが、完成品です!私たちはあの飾り気のなさが好きなんです。
おふたりの作品は、機能的で装飾的な作品として絶妙なバランスを保っていますね。どのように使われることを想定していますか?家具、それとも彫刻としてでしょうか?
ハネス:家具です。でも、彫刻としての要素もあります。僕たちの作品を使って一種の風景を作ってもらえたらいいですね。
フィーン:もちろん作品をどう見るかはその人の自由ですし、私たちの作品はよくアートとデザインの中間にあると言われます。私たちはアーティストとしてデザインしているのですから、それも当然です。作品が彫刻として見られるのはわかりますが、私たちの作品を持っている方には、アートとデザインの中間にあるものとしてではなく、飾り気のない実用的なものと考えてもらえるよう願っています。
では、クリエイティブなデザインの機能性を守るためには、どうしていますか?
ハネス:私たちは常に快適さとフォルムのバランスを保つことを心がけています。よいチェアを作る上で最も難しい点です。テーブルや棚とは違って、そこに座る体が自由に動けるよう考慮しなければならないのです。僕たちの作った椅子をひと目見るなり「座り心地はあまり良さそうに見えない」と言う人が多いのですが、座った途端に――
フィーン:「いいね!すごく使い勝手がいい」と言うんです。私たちは「当然です!」と思います。機能性の実現はとても大切です。それを目指さないのなら、ふたりともそれぞれアーティストとしての制作を続けていたでしょう。
一緒に製作することは共有する家具というコンセプトにもつながりましたか?例えば、2人掛けのチェアなど。
ハネス:そうですね。ただ、2つのものを組み合わせるのは、より彫刻的なものを作るためでもあります。次元的にも、空間的にも。
フィーン:意識的に目指したわけではありませんが、ふたりで一緒に製作したことが2つ1組という考えに影響していると思います。2012年に開催した「Future Primitives(フューチャー・プリミティブ)」という展覧会は、未来の生活を考えるというテーマでした。未来は「コンパクトな生活」になると思うので、複数の機能を組み合わせる必要があると考えました。
なるほど、機能的な方法でスペースを節約することも理由の1つですね?
フィーン:そうです!
ハネス:とはいえ、厳密な意味ではありません。なんと言っても僕たちは感覚を大切にするデザイナーであり、工業デザイナーではないのですから。
フィーン:初めて家具を作った時のことをお話しするべきですね。あれはアントワープにあるアートとデザインのギャラリー、ヴァレリー・トラン(Valerie Traan)で開催された、ミュラー ヴァン セヴェレンとして初めての展覧会でした。そのときは自宅を改装中で、天井裏の電気配線に問題が起きていて、何か上から照らす照明が必要でした。それがきっかけとなって生まれたのが、テーブルに上からの照明をつけたデザインです。展覧会用の作品としても、実生活での問題解決策としても成功しました。
おふたりの作品が日常生活から影響を受けていることがわかりますね。おふたりは解決すべき「問題」を見つけたら、それを解決するためのクリエイティブプロセスは成り行きに任せますか?それとも計画を練るほうでしょうか?
ハネス: 間違いなく計画を練るほうですね。どちらかが図面を引き始めて、もうひとりがそれに続くという感じです。
フィーン:そうして作品が生まれます。図面が完成したら、すぐに作品を作り始めるんです。何らかのかたちで立体化して、実際のバランスや座り心地、体でどう感じるかなどを試します。私たちは製作者。スタジオで手を動かして常に何かを作っていたいのです。
家具は彫刻だと思っています。手作業でのプロトタイプ作りは、基本的に彫刻ですから。
―ハネス ヴァン セヴェレン
以前、時代を超越したものを作るのが目標と言いましたね。時代の超越とは、おふたりにとって何を意味しますか?
フィーン: 100年後に、それが1980年代に作られたものか1990年代に作られたものかを簡単に特定できない作品を作ることが重要だと思います。私たちの作品が時代を超越しているとは言いませんし、ある時代のものだということはわかるかもしれません。でも、時代を感じさせない「感覚」を追求し、目標にしています。
興味深いことに、それはCOSにとっても同じです。トレンドに左右されず、シーズンを越えて着てもらえるデザインを目指しています。
ハネス:そうですね、確かに私たちはトレンドを考えて製作してはいません。時には「この色は流行りだからだめだ」と、使うのをやめることさえあります。
ベルギーはアートとデザインにおける重要な街として長い歴史を持ち、今では一流のクリエイティブスタジオが数多くあります。ベルギーデザインとしてのアイデンティティはあると思いますか?そして、それは何らかの形でおふたりに影響を与えていますか?
フィーン:ベルギー特有のスタイルがあるかどうかはわかりませんが、クリエイターだけでなく、ベルギー人は一般的に非常に控えめだと思います。私たちは落ち着いた状態が好きです。たとえどこに住んでいたとしても…たとえばメキシコに住んでいたとしても、今と変わらない作品を作っているでしょう。心からそう思います。
